2011/12/30

この映像




撮影/編集/監督:モニカ・バプティスタ
撮影:安念真吾
整音:ヒューゴ・サントス
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生描画:鈴木ヒラク
生演奏:ラズ・メシナイ
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今さっき完成版を初めて通しで見て、これは本当に映像として面白いと思った。この場にいなかった人も、いてくれた人も、できれば最後まで見て/聞いてほしい。自分はさすがに一回見るだけでよくて、もうたぶん見ないけど。でもどこかの大きいスクリーンで爆音で一回だけ上映とかしたら面白いかもしれない。

ちなみに解説じゃないが、ここで少し紹介をしたい。このラズというユダヤ人の音楽家は、最高です。彼とはヘルズ・キッチンにある大きな劇場みたいな場所で知り合った。僕はもともと10代の頃から、当時ラズがやっていたSub DubというユニットやBADAWIという別名義での音楽は耳にしていたんだが、ライブを見るのは初めてだった。その日はNY中の即興演奏家が集まり、入れ替わりで5時間演奏し続けるというイベントで、ジーナ・パーキンスやエリオット・シャープ、DJスプーキー、アンチポップ・コンソーティアム、イクエ・モリ、ジョン・ブッチャー等々という凄まじいメンツがそれぞれの独自なやり方で音を出して、ある流れをかたち作っていた。その中で、最も異彩を放っていたのがラズだった。一番フザケていて、深淵で、果敢で、しかも完璧なプレイをしていた。それで終演後、いきなり彼に「何かやりたいっす!」とか熱く話しかけている自分がいた。そのあともう一回ソーホーのクラブでも再会した時にまた色々話して、「ンじゃあなんか即興で音出すワー」と言ってもらい、今回のショーが実現した。とにかくラズは、本当に音楽の通りの人間です。

それから、この映像を作ったモニカという映像作家も、かなり興味深い人間です。最初はスタジオの外の階段で座っているときにタバコの火を貸して普通に話していたんだけど、次の日近所でやっていたジョナス・メカスのショーのオープニングでも会った。それで、あとでスタジオが隣だったことに気づいたっていう。彼女の作品はいくつか見たけど、巨石を撮ったフィルムとか、ロシアの兵士とチェチェン人の2人を同じ鉄道の中で撮った映像とか、面白かった。この人は映写機を使ったパフォーマンスもやっていて、来週フィル・ニブロック御大とコラボレーションをするらしい。彼女みたいにテクノロジーに精通している若い人が、フィルムとかカセットテープとかレンズとか、ガラクタのようなものや、音楽も含め、古いもの全般に愛着を持って、大事に使っているのを見ると、素晴らしいなと思う。

サウンドエンジニアのヒューゴはモニカの友達で、今はサウンドの勉強と仕事をしているが、もともとカイピリーニャ専門のバーでバーテンをしていたという男。彼の作るカイピリーニャは2年前に僕がブラジルで飲んだのと全く同じ味がするし、同じ効き方がする。それで、なんというかとにかく最高にいいヤツで、だから、この映像の音はめちゃくちゃいいはずです。

そんなメンバーに加え、ちょうどNYに滞在中だった、長年の戦友であるMC/アクティヴィストのシンゴ02くんが絶妙なカメラワークで参加してくれた。彼は本当に多才で、グラフィックもすごいの作るし、写真や映像もかっこいいのを撮るんだよなあ。

今年は暖冬と言われているが、やはりNYの外気に触れると、なんか全体的に自分の表面がビリッとする。NYは常に自らをアイデンティファイすることが求められる場所だ。人と人との間に、日本のような余白もなく、ヨーロッパのような深い歴史もなく、ただ平面上に無数の差異が同時にあり、ぶつかり合いせめぎ合っている。「で、お前は何者なんだ?」と。たぶんこういうせめぎ合いの中で生まれる「自由」ってものがあるんだと思う。いま僕はそれを一番学んでいる気がしている。

そんな中、こうして東京でやるのと変わらないようなテンションで、でも少しだけ前に進んで、面白い、変な、素晴らしい志を持った仲間達と協力して新しい何かを作れたことは嬉しいし、本当によかったと思う。
感謝。

よい年を!


2011/12/18

このライブ















やった直後、iPhoneをなくした。いっしょに記憶もなくしました。舌がビリビリする位の高熱を引きずったまま合計40mぶん描いたりしたもんで。でも、内容はよかったと思う。面白い映像も残っているし、後になって嬉しい感想を聞いたり、好意的な取材も受けた。しかし何より、手が感触を覚えている。まああと3ヶ月弱、NYではiPhoneナシでいきます。(アメリカ用のおもちゃみたいな携帯は持っています。)

このライブを見に来てくれた画家がいる。僕は初めて会ったんだが、お互いの作品のことは知っていた。昨日の昼、ブルックリンにある彼のスタジオを訪ねた。不思議な奥行きを持った音楽みたいな絵に囲まれながら、コーヒーを飲みながら、窓の外が暗くなるまで2人でいろいろと四方山話をした。共通の知人である、数年前に突然この世から消えてしまった「時計」という名前の音楽家の、キラキラした音楽を久しぶりに聞いていた。それで、なんというか。一昨日に89歳のジョナス・メカスの新作映画「Sleepless Nights Stories」を見ているときにも、逆の方向から同じようなことを感じんたんだけど。本当に人間ってヤツは、そのものが音楽や映画みたいで、なんていびつで複雑でバカバカしくて理不尽で、いとおしい現象なんだろうか。その現象の前にも後にも世界はあり続けるっていうのに、限られた時間と空間の中でじたばたする。それを飛び越えようとしたり、壊そうとしたり、諦めたり、乾杯したり、俳句を詠んだり、歌ったり踊ったり、何かよくわからなくなっちゃったり、何かに気づいたり、全てをかけて何かを作って刻み込もうとしたり、いろいろする。

今年が終わろうとしている。まあまだちょっとあるが。どこにいても、生きてりゃ、日々いろいろなことが起こる。でも今ひとつ自分にとって確かなのは、このとんでもなく波打った時間と空間の中で、僕の作品をフラリ見に来てくれた人へ、心の底から「ありがとう」って伝えたい気持ちだ。伝えきれないから、またコツンコツンと、自分の手で描いていく。実際は描いているときには、何も関係ないんだけど。でも同時に全部が関係ある。誇張でもなんでもなく、本当に何もかもが、当たり前のように関係している。そういうことをしっかり実感しながら、まだまだ先に進んでいこう。

というわけで、ここに写真をいくつか載せておく。Razの音が本当に素晴らしかったから、映像もたぶん、また後で。

Hiraku Suzuki Live Drawing Performance with Live Music by Raz Mesinai
at Location One (NY)

photo by Chito Yoshida